米や小麦の種子は誰のもの?誰が守っていくの?

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米や小麦の種子は誰のもの?誰が守っていくの?

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はじめに

米や小麦の種子って誰のものでしょうか?
そして、誰が守っていくものなのでしょうか?

「農家のものじゃないの?」
「いやいや、今まで税金を使って国や県が種子を作ってきたんだから、国民全体のものだよ。今後も、国が責任をもって守っていくべき。」
「野菜の種子は民間企業がどんどん開発してるんだし、米や麦の種子ももっと民間に委ねていくべきでしょ。」

つい先日まで、日本の国会でこういう議論が行われていました。
「主要農作物種子法(以下、種子法)の廃止法案」が国会に提出され、衆参両院で審議され、2017年4月14日の参議院本会議で可決、成立しました。
メディアではほとんど報道されていないので、知らない人がほとんどだとは思いますが。僕は国産小麦を扱うパン屋として、この動きを注視してきました。
僕と同じように国産小麦を扱う人や、国産米を主食にしている人にとって、ターニングポイントの一つになるかもしれません。ですので、このタイミングで、日本の種子について簡単に整理してみたいと思います。

そもそも種子法とは?

種子法は昭和27年に制定された法律です。
主要農作物(稲、小麦、大豆など)の種子の品種育成及び普及のため、都道府県の果たすべき役割を規定しています。
その中に奨励品種制度というものがあり、これは各都道府県がその地域に普及すべき優良な品種を指定することを言います。
この法律は、戦後日本における食料の安定的供給という課題に対し、大きく寄与してきました。

種子法の廃止の背景

では、なぜ今、この法律の廃止が決定されたのでしょうか?
農水省の説明では、
「時代は変わり、今後、農業の競争力を高めて世界と戦っていくためには、民間の知見を活用して、品種開発を強力に進める必要がある。しかし、種子法の存在、とりわけ都道府県による奨励品種制度がその障壁になっており、公と民の競争条件が不平等であるため、本法律を廃止したい。」ということです。
簡単に言えば、今後は民間の種子開発・生産を増やしていきたいけど、種子法が邪魔だから廃止しますよ〜ってことですね。

種子の世界はどう変わったか

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では、種子の世界はどのように変わったのでしょうか?
農業・食の源である種子は、各地域の農民が先祖代々品種を選び抜き、次の世代に引き継いでいきました。
戦後、食料を安定的に供給する必要があったことから、国が多額の予算を投入し、穀物の種子の開発・普及に取り組みました。
しかし経済のグローバル化に伴い、種子の世界に多国籍アグリビジネス企業(モンサント、バイエル、シンジェンタなど)が参入し、種子も地域・国家の枠を超えていきました。
そして、種子は知的財産として企業の私的所有を可能にし、投資の対象となることで競争が激化し、多国籍アグリビジネス企業は各地で熾烈な買収合戦を繰り広げ、世界の種子市場は急速に寡占化が進んでいます。

種子法廃止の反対意見

そして、この種子法廃止に対しては、いくつかの懸念事項が挙げられています。大まかにまとめると以下のようなものです。

1:種子法廃止により、都道府県としては種子の開発・管理の根拠法を失うので、予算確保が困難になり、結果として地域の種子が守れなくなる。
2:種子は農業の最も基本的な生産資材であり、それは公が管理していたから、その価格が抑えられてきた。民間主導になると、利益優先になり、価格上昇を招き、農家の負担が増える。
3:今まで多額の税金、多大な時間をかけて種子における知見を培ってきた。種子法廃止は、その知見を民間(外資を含む)に払い下げることになり、食料安全保証上、大きな問題が生じる可能性がある。
4:種子法廃止は、多国籍アグリビジネス企業参入を促進することになり、日本の米・小麦においても遺伝子組換え作物(GMO)が広がってしまう危険性がある。

遺伝子組換え種子・作物の状況について

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遺伝子組換え種子・作物についてはカルタヘナ法や食品衛生法によって規定されているので、種子法廃止とは直接関係ないんですが、間接的影響はあると思うし、お客さんや友人と話をしていて、その現状についてあまり知られてないなぁと思うので、少し書いておきます。
まず遺伝子組換え作物の輸入状況です。
「遺伝子組み換えでない」表示ばかりだし、日本には遺伝子組換え作物は輸入されていないと思っている方も多いと思いますが、日本は遺伝子組換え作物の輸入大国です。
大豆やとうもろこし、なたねなどについて、日本はその約8割をアメリカ・カナダからの輸入に依存しており、輸入している9割ほどはすでに遺伝子組換え農作物です。その状況については、農水省のサイトに説明があります。
http://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/carta/zyoukyou/
また国内での実験状況ですが、商業利用はされていないものの、稲やとうもろこしなど、多数の作物でその試験の承認が行われています。遺伝子組み換えの米が広がるのも、時間の問題なのかなぁという印象です。
一方、多国籍アグリビジネス企業が、遺伝子組換え種子事業において次のターゲットにしているのが小麦で、近年、小麦種子企業の買収を各地で行なっているそうです。

個人的意見・まとめ

経済のグローバル化に伴い、農業の世界も大きく変化しているので、日本においても農業関連の法律をアップデートし、民間の活力をフル活用していこうという国の方向性は大いに賛成です。というより、農業の世界では法律もその体制も、変化がなさすぎたと思っています。
しかし、種子法廃止に伴う農水省の説明を聞いていると、「法的根拠は失っても、都道府県の自主的判断により種子事業は継続されるはず」、「日本の種子における知見が他国企業には奪われないように、都道府県がそのような契約を行うはず」「日本の種子市場は小さいため、多国籍アグリビジネス企業にとって魅力的な市場ではなく、それほど危険視していない」というような答弁があり、都道府県任せで過ぎな印象であったり、世界の種子市場の動きからすると、いささか楽観的過ぎるのではないかと思えるものでした。

国として、種子をどのように活用し、他国と戦っていくのか。
また、多国籍アグリビジネス企業の攻勢に対して、どうやって日本の種子を守っていくのか。
そのために法体系をどう整備していくのか。

今回の種子法廃止に伴う動きを見ていて、日本の農業戦略の攻守の姿勢が全く見えなかったところは不安であり、不満が残りました。
個人として、パン屋として、出来ることは非常に限られてはいますが、国産小麦の種子がこれからどうなっていくのか、その状況を把握して、今後もお客さんに伝えていけたらと思っています。

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2017-05-01 | Posted in 生き方・ビジネス・食No Comments » 

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